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早春の山廬

山廬で最も早く咲くのは、裏の池のほとりにある寒紅梅である。毎年一輪二輪正月に開花する八重の梅である。

二月に入ると蕾も膨らみ、

   ぱつぱつと紅梅老樹花咲けり  蛇笏

こんな景色になる。

続いて藪椿が、深紅の花をつける。山廬の隣家の角に大きな藪椿の木がある。なかなかの枝ぶりだが、隣家はだいぶ前に歩いて数分のところに住まいを新築し引っ越して、以来、放置されたために、木全体を蔓が覆い隠してしまった。これではひとたまりもない。一気に樹精が弱まてしまった。見かねて、昨年この蔓を何と切り払った。久しぶりに艶りとした光沢のある椿の葉が現れた。大木になると枝の先端が垂れ下がって、なかなかの景色となる。

今年の冬はいつになく暖かで、裏の池が凍ったのは一日だけだった。

こんない暖かい冬は父が亡くなった十三年前の冬以来だ。

ある朝、椿の大木に目をやると数輪開き始めていた。

  地に近く咲きて椿の花おちず  蛇笏

父が好きだった山廬入り口の「鹿児島紅梅」はすでに五分咲きとなっている。

 早春の山廬は、活力に満ち、一日ごとにその姿を変えてゆく。この力強さを龍太はこよなく愛した。

                                      〈文/写真  飯田 秀實〉

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