飯田家には1本の柚の木がある。もう50年近く前になるだろうか。山廬裏の竹林に柚の苗があった。父に「これはどうして生えているのか」と聞いたことがあった。すると「四国の方から立派な柚を頂いた、その種から芽を出したもの」だそうだ。私に聞かれて思いたったのか、しばらくして父は苗を日当たりのよい母屋南側の畑に移植した。
おかげで成長も良くなった。しかし、実のなる気配は一向になかった。「桃栗三年柿八年」「柚は‥」9年とも18年とも言われ、なかなか実を付けない植物にたとえられている。それにしてもならない。牡蠣殻がよいとのことで根元に撒いてみた。それやこれやで20年近く経ってしまった。さすがの父も「切ってしまおうか」とぼやく始末。
するとある年の夏、枝の先に青柚がなっているではないか。「柚は刃物を当てるとよい」という話を聞いたことがあるが、父の言葉を聞いていたのだろうか。以来毎年たくさんの実をつける。しかもこの柚が大きく香りがよい立派なもの。5月、すがすがしい香りを放ち純白の花が咲く。天ぷらにすると口の中に柚の香りが広がる。これは美味である。
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夏は青柚を薬味とし、初冬からは鍋や吸い物、漬物の必需品。贈答用にも使っている。そして冬至湯。
正月のお節料理には母が柚子の皮を甘露煮にした。
今年もたくさんの実をつけている。
(文/写真 秀實)