早春が好きだった龍太は、ある時出入りの庭師に頼み、辛夷の木を植えた。昭和50年代初め狐川の河川改修で、竹林の伐採を余儀なくされた。工事で殺風景になってしまったところに植栽したのだ。あれから40年近く経ち、堂々たる大木になった。
毎年、3月10日から15日にかけて開花する。龍太がこの世を去った平成17年はとても暖かな冬で、告別式の行われた3月6日、数輪が開花した。高い三脚を出しこの枝を切って祭壇に飾った。龍太は本当に辛夷の花が好きだった。
父が植えた辛夷はやや大ぶりのもの。満開になるとそれは豪勢である。数年前同じ庭師にお願いして、より自然な辛夷の木を探してもらった。狐川を挟んで対岸に植えた。こちらは花の時期が少し遅れる。
山梨県は八ヶ岳周辺に辛夷が多く自生する。標高が高いため4月上旬から中旬が見ごろ。父は私の運転で早春の八ヶ岳南麓をドライブするのを楽しみにしていた。
文/写真 飯田秀實 2018.03.17